食品業界の12年は攻めの年

11年は食品メーカーにとって「守り」に追われた一年だったが、12年は一転し成長路線へ軌道修正を図る年になりそうだ。
重要課題は他業種と同じく、経済成長が続く新興国市場を中心とした海外市場の開拓だ。11年3月に起きた東日本大震災後、メーカー各社は復旧作業や原発事故後の節電への対応に追われた。震災で新商品の発売計画は狂い、広告や店頭販促も自粛。工場の被災により通常通りの生産ができないなかで買いだめに走る消費者もおり、売れ筋商品の安定供給を優先せざるを得なかった。また、続く夏場には原発停止により電力不足が心配されたため、前倒し生産などを強いられた。
世界的な原材料高騰も重石だった。11年は製粉大手が2年ぶりに小麦粉の出荷価格を引き上げたのを皮切りに、コーヒーやパン、バターを扱う企業が値上げを表明。円高で輸入コストが抑えられたのに加え企業側のコスト削減努力もあったものの、カバーしきれず店頭価格は上昇、消費に影響を与えた。
 
12年からは原料価格の高止まりなどは心配されるものの、"天災"の影響はとりあえず収束し、各社は再び成長投資を活発化させる計画だ。例えば、水産大手の極洋は、12年4月からの3ヵ年の中期経営計画において、水産物の調達・販売や冷凍食品の製造・販売で海外の資源やマーケットを開拓することを表明。水産商事事業では、欧米や東南アジアの現地法人と連携し、3国間貿易による海外向け販売を拡大するとした。
スナック菓子最大手のカルビーは中国へ進出し、今年12月からかっぱえびせんや主力のポテトチップスなどを現地で生産・販売する予定である。また、14年3月までに欧州やオーストラリアにも進出し、売上高に占める海外比率を12年3月期見通しの5%以下から21年3月期には30%に高める目標を掲げる。
 
ただ、これまでも海外に進出した食品メーカーは多いものの、海外売上高比率が3割を越す企業は味の素やキッコーマンなどごく一部に限られる。海外市場には欧米資本に比べて日本のメーカーの進出が遅れたため、後発の不利を跳ね返せないケースも多い。
また、現地企業に対しては価格競争力や販売力で劣ってしまう。先に挙げたメーカーが海外でも高いシェアを占めるようになったのには、現地の好みに合わせた新商品をまず投入してブランドイメージを構築したことや、ウォルマート・ストアーズなど国際的な大手小売業と提携し販路を開拓するなど、"自前"にこだわり過ぎなかったのが主な勝因だ。
しょうゆが主力のキッコーマンが73年に米国で現地生産を開始する前に力を入れたのが「テリヤキソース」の輸出。しょうゆを知らない米国人のためにしょうゆをベースにした肉料理に合う調味料を作り、「イントロ」とした。また、最近では、甘い「スクレソース」を料理に合わせる食習慣のある欧州向けに砂糖じょうゆのような味わいの調味料「スクレ」を開発。特にフランスで売り上げが3年で20-30%伸びるなど好評を博し、主力のしょうゆにも需要が波及しているという。
即席めんの東洋水産は、ライバルの日清食品に米国進出で後れをとったものの、いち早くウォルマートとの関係を築いたことで日清を逆転。現在では米国で約6割、メキシコで約8割のシェアを握るまでになるなど、販売網の拡充が決めてになった。
 
内需に依存してきた日系食品メーカーだが、国内市場の縮小は避けられず、成長には海外市場の開拓しかない。ただ、それには中・低価格帯で現地消費者の日常生活に溶け込むような商品開発が必須である。日本流のきめ細かいサービスや高品質といったブランドイメージだけに頼るのではなく、現地の流通業者と提携し、現地人の嗜好に合わせた商品を素早く投入するといったことがシェア獲得には不可欠になりそうだ。