果たして今回も「原油100ドル超え」はあるか?(後編)

(中編から続く)

さて、そうなると原油市場はいったいどこへ向かうのだろうか。ここまで見て来た状況を考えると、今後、価格が大きく上ぶれする可能性は否定できない。現状を過去の原油高騰時になぞらえて、危ぶむ向きもある。
しかし、「原油価格が100ドルを大きく超えた時代と現在とでは、状況が違う」と、大越エコノミストは指摘する。以前の高騰は、新興国の旺盛な需要や世界的な金融緩和の中で、投機マネーの市場への流入を主因として起きた異常なケースだった。それに対して現在の市場は、おおむね現実的な需給を反映しながら推移している。緩んだ市場がOPECの協調減産などによって引き締まる過程で、突発的に発生したイラン・ベネズエラ問題という不確定要素が価格を押し上げているのだ。そうなると今後の需給は、短期要因と中期要因の2段階で考えるほうがわかりやすい。
まずは、不確定要素が演出する短期的な需給動向だが、先行きはトランプ大統領の出方にかかっていると言えよう。
トランプはこの10月と11月に、約1100万バレルの戦略石油備蓄(SPR)を取り崩し、市場へ放出すると表明した。原油に連動して上昇を続けるガソリン価格は、消費が鈍ると言われる1ガロンあたり3ドルに達する勢いだ。11月の中間選挙を控え、国民の反発で支持基盤を弱めたくないトランプの思惑が見える。しかし、やはり支持基盤の一部を占める石油企業への配慮もあって、手始めに放出するのは日量で18万バレル程度の予定。一時的な鎮静効果はあっても、イランやベネズエラで見込まれる水準の減産が起きれば到底追いつかず、さらなる放出を迫られるだろう。
また、危機感を募らせたトランプは、9月下旬、OPEC産油国に対して原油増産による価格の引き下げを求めたが、これを拒否されている。それを受け、原油価格は一時80ドル台まで急伸してしまった。

まさに待ったなしの状況なのだが、こうなると予測できないのが「トランプ流」。強硬路線から融和路線へと転換し、2度目の首脳会談を目論む北朝鮮との「ディール外交」で見せたように、実利をとってイランへの制裁を緩和する可能性もある。前出の石油元売り企業の関係者は、「同業者の間でもそのような見方は少なくない」と語る。そうなれば、原油需給は一転して緩み始めるだろう。
むろん、選挙が終わってしまえば原油市場への興味を失い、自ら「原油の独占組織」と批難するOPECに責任をなすりつけ、放り出すというリスクもあるが――。果たしてどうなるだろうか。

次に、中期にわたる需給動向だ。需要面で見ると、13年以降、世界の実質経済成長率とそれに連動する原油価格は、比較的安定して推移している。IEA(国際エネルギー機関)や野村證券の見通しによると、成長率の伸び率は毎年1%程度で、原油需要は13年以降の平均で毎年日量150万バレル程度伸びていく。このペースだと、今後も需給は引き締まり気味で推移しそうだという。
EV(電気自動車)やスマートエネルギーへのシフトはまだ道半ばであり、原油需要が伸び続けるトレンドはしばらく変わらないだろう。そこで、もしもインドなどの新興国需要が急激に立ち上がるようなことがあれば、価格は上ブレしそうだ。「大幅な省原油化が進むか、世界経済が大きく落ち込まない限り、原油の需要は増え続ける」(大越エコノミスト)。

一方で供給面を見ると、最も増産を期待できる米国シェール勢が、パイプラインの整備や生産効率の改善を経て、これから原油供給を本格的に増やしてくるはずだ。原油価格の高止まりは、彼らに加えて、カナダのサンドオイルや海底油田の開発も後押しする。それは将来の供給増へとつながり、結果的に原油需給を今より緩和させる効果がある。
このように考えると、折からの価格高騰は、供給サイドの新たなプレーヤーが目覚める前のアクシデントよってもたらされたとも言える。言うなれば、ボトルネックと一時的なリスク要因が複合的に顕在化した状態だろうか。ならば、これから一過性の価格高騰はあったとしても、相場水準が大きく切り上がることは考えづらいかもしれない。先行きは依然として不透明だが、目先の価格上昇が一旦どこで落ち着くのかを、冷静に見守りたい。
ガソリンや灯油が値上がりして生活が苦しくなる――。我々が日々感じているリスクは、こうした想像もつかないほど巨大なグローバル市場の思惑によってもたらされているのだ。