果たして今回も「原油100ドル超え」はあるか?(中編)

(前編から続く)

原油価格は08年前半に150ドル近くまで高騰した。「当時、OPEC産油国の余剰生産能力が世界の石油需要に占める割合は2.6-2.7%程度だったが、このまま余剰生産能力が減っていくと、当時の水準に近づいていく」(野神エコノミスト)。需給の逼迫度は想像していたよりも強いと言える。
こうした事態を、当初、市場関係者はいくぶん楽観視していた。OPECによる減産緩和への合意や、トランプ大統領が中国やカナダに仕掛けた貿易戦争で世界経済が減速するという見通しから、市場では一時、需給の逼迫感が緩んでいた。その反動もあり、足もとでイランやベネズエラ原油輸出がいよいよ減り始めると、逼迫感が一気に高まったのだ。
隘路にはまった既存プレーヤーたちに替わり、供給サイドの新たなリーダーになれる存在は他にいないのか。いるとすれば、それは米国シェールオイル勢(以下、シェール勢)だろう。
振り返れば、ここ数年の原油市場は、価格を支配するOPECと新興シェール勢との攻防の舞台でもあった。「両者を取り巻く環境は2013年前後で大きく変わった」(野神エコノミスト)。12年頃まで、原油市場の主なドライバーは需要だった。非OPEC勢の生産がなかなか立ち上がらないなか、リーマンショック後の景気刺激策で大きく伸びた中国需要の穴埋め役をOPECが一手に担い、高値安定が続く見通しが醸成されていた。
ところが13年以降に状況は一変、供給が市場のドライバーとなる。中国経済の減速に加え、大きかったのが非OPEC勢の台頭だ。彼らの生産は伸びないだろうという見通しが崩れ、シェール勢の大増産が始まった。市場には「OPECの価格決定権が弱まる」という見通しが広まり、需給に緩みが生じて原油価格は下落。前述のように、OPECは17年初頭から「シェール潰し」を目的に協調減産を始めたものの、原油価格は17年半ばまで40-50ドル台と上値が重い展開が続いたのである。

実はこのシェール勢も、足もとで増産を活発化させていない。そのことは市場において、「先高観」の要因の1つにもなっている。
17年12月に米ダラス連銀がシェール企業に対して行った調査によると、「彼らは増産に動ける原油価格帯を60-70ドル台と見ている」(大越エコノミスト)ことがわかった。つまり、彼らにとって損益分岐点となる価格は現在の原油価格と同水準で、さらに価格が上向かないとリグ(油田の掘削装置)の稼働数を増やすことは難しいと見られる。実際、米国エネルギー省の統計によると、シェールの中心地であるテキサス州西部のパーミヤンをはじめ、主要7地区で生産は鈍化している。
これまでも言われてきたように、シェール企業の生産効率は上がり続けている。既存の油井(原油を採掘するための井戸)を長く掘り進めてシェール回収率を増やす技術革新に加え、大きいのは探索能力の向上だ。同じ採掘法でも、原油の含有率がより高いシェールの岩石層を見つけて集中的に掘り、1バレル当たりの生産コストを安く抑えることができるようになった。
一方、生産した原油を輸送するパイプラインの能力には限界がある。たとえば、パーミヤンで開発される原油は日量約350万バレルで、これはパイプラインで運べる量とほぼ同じ。たとえ増産が可能でもこれ以上の市場供給は難しいことがわかる。タンクローリーや鉄道などの代替手段で運ぶこともできるが、コストが高くつく。こうした採算性の問題により、足もとのシェール勢には増産を見合わせるトレンドが強い。主要なパイプラインの増強が行われるにしても、早くて来年半ば以降の見込みという。それから増産が始まるとしたら、原油市場でのインパクトは向こう1年ほどは小さいだろう。

(後編へ続く)