バフェット氏も投資先がない?

流行を追わず、価値あるものをかぎ分ける自らの鋭い嗅覚で、投資会社バークシャー・ハサウェイ時価総額4700億ドル(約53兆円)の巨人へと育て上げた米著名投資家ウォーレン・バフェット氏。だが、このたび、自社株買いの社内規定を緩和したことで、バフェット氏が、急にその他大勢に同調し始めたようにも見うけられる。
発表を受けて、バークシャー株は18日に4%上昇したが、この方針変更は、同社に積み上がった手元資金1090億ドルについて、投資先のアイデアに枯渇しているという、懸念すべき事態を示しているともいえる。

この伝説的投資家は、基本的には自社株買いを容認している。米飲料大手コカ・コーラとクレジットカード大手アメリカン・エキスプレスが15年に行った自社株買いについて、バークシャーが1銭も払うことなく、自らの株主利益や、両社の利益に占めるシェアを高めることができたと、バフェット氏は歓迎した。
だが、それと同時にバフェット氏は、株価が本質的価値を下回る場合に限り、経営陣が自社株買いを承認すべきだとの立場を明確にしている。そのような方針を明確にしている企業は少ない。
バークシャーは11年9月、1株当たり純資産の1.1倍以下の水準で自社株を買い戻すと発表。その日の株価は8%上昇し、実施できた自社株買いは6700万ドル程度にとどまった。その翌年、バークシャーは上限を1.2倍に引き上げ、12億ドル相当の自社株を買い戻した。

そしてバフェット氏は今回、この上限を撤廃した。株式市場が上昇を続け、M&A(合併・買収)件数が増加したことで、バフェット氏が言うところの「理にかなった」株価で取引されている大企業が少なくなり、その結果としてバークシャーのポケットには山のようなキャッシュが積みあがっている。
バフェット氏は、自身が「買い入れ熱」と呼ぶ行動に参入することは拒否しており、一貫性と自制心も見せている。自社株買いは、同社にとって最善の選択肢なのだろう。
とはいえ、バフェット氏は過去に、バークシャーの株式パフォーマンスが良好な理由の1つとして、明確な自社株買い基準を持つことの発信効果もあると分析していた。
この明確な基準が今回、「バークシャーの本来的価値を下回っていると保守的に判断」される価格で自社株を買い戻すとの約束に替わった。要するに、バフェット氏は投資家に「私を信頼せよ」と告げているのだ。

トムソン・ロイターによると、18日に株価が上昇する前の時点で、バークシャー株はすでに、この先12カ月で予想される1株あたり純資産の1.22倍で取引されており、バークシャーだけが、こうした動きに出ている訳ではない。
S&Pダウ・ジョーンズ・インダイシーズによれば、減税の恩恵や好調な経済で潤った米国企業による第1四半期の自社株買いは、4割近く増加し、過去最大の1890億ドルに達した。
だが株主たちは、独特なアプローチを打ち出しているという理由で、バフェット氏に投資する傾向にある。今や彼は、そして彼らも、ただ流れに追随しているにすぎない。