悩める雇用統計の評価

いい感じでニューヨークダウ平均の過去最高値を更新してきた米国市場だが、次の関門は6月6日発表の米国雇用統計だ。

このところのFRBの言動を見ていると、バーナンキ議長時代と決定的に異なる点が2つある。
まず、イエレンFRB議長は、雇用と同等に住宅問題を重視していること。これは、かりに雇用統計が良くても、「量的緩和は縮小しつつ、超低金利は継続。引き締めへの転換は15年以降」を意味する。「当面緩和継続」姿勢は変わらない。相対的に雇用統計の重要性がやや薄まってきている。
次に、雇用統計の内訳だ。これまでの「非農業部門新規雇用者数」と「失業率」の二本柱だけが注目される状況は終わった。イエレンFRB議長は、「賃金の伸び」「正社員になりたくてもパートタイマーに甘んじている人」「長期失業者」に特に注目している。シカゴでの講演で、それぞれの具体的例を実名入りで紹介したほどだ。
特に、求職を諦めた人が増加することで見かけ上、失業率が低下したこと。さらに、前任者が「失業率が6.5%を割り込むことが、引き締めへの転換議論開始の一つのきっかけ」と明言していたが、予想以上に早く、あっさり6.5%以下に下がってしまったことで、雇用統計の内訳を分析して失業の構造的要因に注目するようになったのだ。
従って、米雇用統計の総合評価は、フィギュアスケートの採点に似てきた。採点項目で、新規雇用者数は最重要項目で残るが、失業率より労働参加率が重視される。過去最低水準に低迷しているからだ。加えて、平均時給と長期失業者数も相対的重要度が増している。
このイエレン方式の総合評価は、分かりにくい、という欠点がある。フィギュアスケートの採点同様に、もめがちなのだ。

そこで、市場の反応も振れがちになる。
まず、ヘッドライン的に「新規雇用者数xxxx人」と事前予想の乖離に高頻度取引のプログラム売買が反応する。事前予想より良ければ、金利高、株高、ドル高という「市況の法則」に沿った展開になる。しかし、これが一巡すると、市場は冷静になる。新規雇用者数の過去数カ月の移動平均、前月・前々月の修正、そして労働参加率、平均時給、平均週労働時間、長期失業者数、パートタイマー数などの項目が重視され始める。新規雇用が増えても、その後、内訳に改善が見られないと、市場の反応も、当初の値動きと反対に動き始める場合もある。結局、総合評価の全貌が、おぼろげながらも明らかになり、市場のコンセンサスが収斂するのには数時間かかることになろう。
特に、今回は、新規雇用者数の事前予測が大きく割れているので、市場の当惑も予想される。