定年後に起業する際には…

仕事一筋に生きてきた企業戦士は、定年後も何らかの形で働くことを望む人が多いらしい。だが、おいそれと仕事は見つからず、再就職は難しいのが現状だ。ならばいっそのこと独立するという方法もある。
 
一国一城の主になることは男のロマン、サラリーマンの夢でもある。例えばプロの営業マンや人事業務、商品企画などさまざまなスキルを武器に独立するインディペンデント・コントラクター(IC=独立事業請負人)であれば、役所に届け出る必要もなく、難しい資格や免許も要らない。人件費や事務所費などの固定費はゼロに近く、それほど資金力も必要としない。定年を迎えた元企業戦士にはうってつけの働き方、生き方であろう。
 
定年後のチャレンジは結構なことだが、落とし穴に注意が必要だ。どんなビジネスを始めるにせよ、起業は妻の協力がなければうまくいかない。元工作機械メーカーの営業部長だったS氏(58)は、早期退職優遇制度の方針が打ち出されたのを機に55歳で早期退職し、営業代行の仕事を始めた。
「上司には話して独立後は協力するよと言われていたのですが、女房に言ったってどうせ反対されるだろうと、直前まで黙ってました。案の定反対されましてね。予定通り辞めましたけど、カミさん、何でうちの人を辞めさせたんですかと会社に文句を言いに行ったんです。恐縮するやら恥ずかしいやら、会社から仕事をもらおうと思っていたけど、そんなことがあって顔を出しづらくなっちゃって。家を事務所代わりに仕事を始めたけど、カミさんにあまり協力はしてもらえないし、いまだに冷戦状態です。やっぱり独立することは事前にちゃんと話しておくべきでした」
 
夫が独立したいというと、大概妻は反対する。安定した暮らしが独立によって脅かされるのではないかと心配するのだ。家を事務所に仕事をするとなると、当然毎日家にいる。妻にとっては亭主が家にいると、食事の用意をしたり仕事の電話にも出なければならず、自分のペースで動けないことがストレスになる。
定年後の独立(早期退職も同様)は、定年前に計画を話して妻の理解を得ておく。「定年になったらやりたいことがある」と伝えるか「再就職はせずに独立する」と宣言して具体的な準備をしている姿を見せ、心の準備をさせておくことだ。
一人で仕事をしていると相談する上司や同僚がいないので時々落ち込んだりすることがあるが、妻が事業のよきパートナーになってくれる場合もあるし、ときには知恵を授かる場合もある。そうした妻の理解を得るには、普段から会話を怠らず家事をこまめに手伝うなど、最低限の気遣いはした方がいい。定年前からそういう気遣いを見せておけば、定年後の「男のロマン」にも全面的に協力してくれることが多いものである。