「とりあえず増税」に本質はあるのか

与党内の議論は政治日程のなかで粛々と進み、3月30日には政府の増税法案が正式に閣議決定された。残念ながらそこに至る議論は、本質から外れた矮小化されたものだった。
他国より見劣りするマクロ経済のパフォーマンスをどう改善するか、ここ数年一気に拡大した歳出規模をどこまで削減するか、非効率な今の年金制度をいかに効率化するか、国際的に見て大きく見劣りする若年世代の社会保障をどのように充実させるか、といった本質的な政策論は殆ど聞かれなかった。この状況は、自民党においても同様である。
この間議論され決定されたのは、法案から追加増税項目(15年10月に10%に引き上げた後の更なる増税規定)を削除すること、増税の条件となる成長率等の数値を明示しないこと、という2点であった。何とか党内をまとめようとする与党執行部の苦肉の策、とも言える。
 
しかし、追加増税項目を外すことによって、15年以降の財政状況と消費税率がどうなるかという議論に蓋がされたことになる。また増税の条件をあいまいにしたことは、マクロ経済運営にたいする責任が不明確になったことを意味する。まさに今回の増税が“とりあえず増税"と呼ぶにふさわしいことが示されていよう。
"とりあえず増税"の本質は、民主党内の反対派小沢一郎氏の最近のコメント「まず他にやることがあるだろう」に端的に示されている。その意味でベテラン政治家の声と、「増税には反対しないが今回の増税には賛成できない」という先の世論調査の声は、絶妙に一致している。
政策論が空洞化したまま、今後増税法案は国会で議論され、そこに政局が絡んでくることとなる。残念ながら既存政党に対する国民の期待低下は、益々明確になっていく。