貿易赤字と円高メリット(前編)

11年の日本の貿易収支が31年ぶりに赤字となったが、日本のメディアというものは、不思議と事象の一面からしかとらえていない解説ばかりであることに気付く。具体的には、急速に進んだ円高のメリットを指摘する声が小さかったことだ。
2兆4000億円超の赤字を記録してはいるのだが、その一方で原油高の影響を緩和させる効果を出し、所得の海外流出幅を緩和したという点にもう少し注目してもいいのではないだろうか。
予想外に堅調な個人消費の背景に円高メリットも隠れている可能性が大きく、闇雲な円高恐怖大合唱はバランスを欠いているようにみえる。

財務省が25日に発表した11年の貿易統計では、80年の2兆6129億円に次ぐ史上2番目の大きさとなる2兆4927億円の赤字となった。東日本大震災やタイ洪水の影響による輸出減少と、原発事故による原油液化天然ガス(LNG)の輸入増加が重なった結果と見ることができる。
この貿易赤字傾向が継続するのか、一時的かという見通しについては様々な指摘が交錯しているが、輸出が回復するとしても、原発稼働の先行きが見通せない現状では、原油LNGの高水準な輸入は継続する可能性が高い。さらに原油価格にはイラン情勢など地政学的リスクによる価格上昇圧力がかかり続ける予想される。とすれば、規模縮小はあるものの2012年も貿易赤字になる可能性は相当にあると予想する。

ここで問題なのは、貿易赤字国である以上、自国通貨高は経済全体にはプラス効果になっているという点だ。円高でなかったならば、貿易相手国に支払う代金が増加し、海外への所得流出が増えていたはずだ。つまり今よりも円安で推移していたら、日本の貿易赤字幅は一段と拡大し、日本経済の負担するコストが増大していたことになる。
だが、国内メディアの多くは、そうした円高メリットに言及することはまれで、円高のデメリットばかりを喧伝する傾向がある。貿易黒字が対GDP比で今よりも格段に高かった80年台以来のパターン化した報道に、多くの国民も慣らされ、「円高イコール不景気」というイメージが定着しているようだ。

円高が進行すれば、自動車業界を筆頭に「収益悪化」を訴え、政府・日銀に円高進行阻止に向けた政策実行を求めるケースが、このところ目立っている。しかし、実際に11年の貿易収支が赤字になったのであるから、円高で利益を受けた企業もあるはずだ。そうした企業は声を潜め、目立たないようにしているためメディアへの露出も少ない。お茶の間のテレビを通じて経済ニュースに接している人々にとっては、「円高は不景気につながる」との印象を強める構図になっている。

(後編へ続く)