個人向け復興応援国債を再検証

11年12月募集の個人向け復興国債の売れ行きが好調だった。同年9月募集のものより、3年、5年物の利率が0.1%高かっただけなのに、募集額は約3540億円も増えたのである。個人向け国債から「個人向け復興国債」に名称が変わっただけなのに、募集額が倍近いとは、改めて言葉の持つ力を感じざるを得ない。一方で、「復興」という言葉を使うのだったら、もっと早く使えば、もっとインパクトが強く、たくさん売れたんじゃないかと思わないでもないのだが。
この「個人向け復興国債」という名称を使うのは、12年3月募集までだが、財務省は新たに「個人向け復興応援国債」を発行することを公表している。

個人向け復興応援国債は、個人向け国債10年ものをベースにした商品。東日本大震災からの復興を応援する観点から、発行後当初3年間は個人向け国債の下限金利である0.05%が適用され、4年目以降は通常の「基準金利×0.66」で計算された金利が適用されることになる。当初3年間は低金利に甘んじることになるが、個人向け復興応援国債の発行から3年目に当たる利払い日を基準日とし、基準日の保有残高に応じて、新たに発行する「東日本大震災復興事業記念貨幣」を、残高1000万円ごとに1万円金貨を1枚、残高100万円ごとに1000円銀貨1枚を贈呈することになっている。仮に個人向け復興応援国債を1500万円購入したとすると、基準日に1万円金貨1枚、1,000円銀貨5枚が贈呈されることになる。半面、購入額が100万円未満の場合は記念貨幣が贈呈されることはない。

東日本大震災復興事業記念貨幣は、集中復興期間の最終年度である15年度中に限定発行されるもので、プレミアム型の1万円金貨ならびに1,000円銀貨を予定している。「プレミアム型」という響きに投資心を揺さぶられるかもしれないが、1万円金貨は純金で2分の1トロイオンス(約15.6グラム)の大きさ。1,000円銀貨は純銀で1トロイオンス(31.105グラム)だ。投資心をそそられる「プレミアム」の意味は、額面よりも材料費(金や銀)の量目の価値が高いということである。
確かに、金貨だけで見ても、三菱マテリアルの12年1月16日現在の2分の1トロイオンスの価格は7万3406円。額面金額1万円を大幅に上回っていることになり、プレミアムが付いていることになるが、通常の個人向け国債10年物との収益の違いはどうなるのだろうか。11年12月募集の個人向け国債10年物の金利0.72%をベースに、1000万円投資した場合の3年間分の収益をシミュレーションしてみたい。3年分としたのは、個人向け復興応援国債金利が4年目から通常のものと同じになるからである。
この手の比較はすでに過去、「個人向け復興応援」というタイトルの日記で、ざっくりと実施しているのだが、以前よりもより緻密な計算を使ってシミュレーションをしてみようと思う。

仮に3年間の金利が変わらないとすれば、1000万円×0.72%×3年=21万6000円の利子。これに対し、個人向け復興応援国債の3年間の利子は、1000万円×0.05%×3年=15,000円の利子に金貨73,406円が加わり88,406円となる。個人向け国債の収益216,000円-個人向け復興応援国債88,406円=127,594円もの収益減となる。
ただし、個人向け国債は半年ごとに金利が見直される変動金利商品なので、長期金利次第で、あるいは金価格の変動次第で収益の差は増減することになる。金利の変動を考慮して再シミュレーションしてみるが、中途半端な金利よりも過去最低金利を用いてみたい。
過去最低の長期金利の水準は03年6月の0.43%。個人向け国債金利を決める基準金利を0.43%とすれば、0.43%×0.66=0.28%が適用金利。さらに条件を厳しくするために、個人向け国債が発行されてから半年後に基準金利が0.43%になり、その状態が2年6カ月続くこととすれば、3年間の利子は1000万円×0.72%÷2+1000万円×0.28%÷2+1000万円×0.28%×2=106,000円。個人向け復興応援国債の金貨を含めた収益は88,406円なので、金利が過去最低水準まで低下したとしても、17,594円個人向け国債の収益が個人向け復興応援国債を上回ることになる。金利の低下だけでは、個人向け国債の収益が個人向け応援国債の収益を下回ることはなさそうである。

では、金価格の上昇をシミュレーションしてみよう。金利が変わらない場合の収益の差は127,594円なので、127,594円÷15.6グラム=8,179円。1月16日現在の三菱マテリアルの金1グラムは4,279円。金価格は8,179円超上昇しなければならないことになるため、4,279円+8,179円=12,458円を金価格が超える必要がある。やはり、金価格の上昇だけで収益の差を埋めるのは、難しいと言わざるを得ない。

個人向け復興応援国債の収益が個人向け国債を上回るためには、長期金利が半年後に過去最低水準まで低下し、かつその状態が2年6カ月続き、金価格が17,594円÷15.6グラム+4,279円=5,406円超まで上昇しなければならない。相場に絶対はないので、あり得ないことではないかもしれないが、財務省の公表資料からは収益の差を埋める可能性はほぼゼロと言える。公表資料には「金貨や銀貨の素材価格動向等に応じ、今後、量目、直径等の変更がありえます」とご丁寧にも注意書きがされているのである。
金、銀の素材価格が上昇すれば、当然、金貨、銀貨は小さくなることが予想され、結果として金、銀の価格が上昇して高収益になることは夢幻なのである。収益の差額、言い換えれば低収益に甘んじている分は、寄付したと思えばいいのだろうが、最初から個人向け国債を購入して、超過した収益部分を寄付したほうが寄付金控除も使え、資金使途も投資家が決められていいと思うわけだ。また、投資額100万円未満には何も配慮がなされないという100万円で線引きしてしまうのもいかがかと思われ、どうみても財務省の、日本人の心理につけ込んだ濡れ手で粟大作戦の一環、体のいいぼったくり商売としか思えない。