遠方の相場する人利益あり 近く見ぬだけ迷い少なし

これは、近世いろは相場金言集というものに載っている相場格言である。
この格言の意味を砕いて言えば、「いつも相場を近くえ見ている人よりも、遠くから眺めて相場する人のほうが儲けは多いものだ。近くで見ていないだけ、迷うことも少ないからだ」ということだ。

情報交換の場である市場にいてこそ有利だというのがかつては常識化していた。一般投資家も証券会社の店頭で株価ボードを眺めながら、値動きを負う光景が普通に見られたものだ。
だが、時代は変わった。情報を得るのに遠くも近くもあまり関係ない。その意味では時代にそぐわなくなった格言といえなくもない。ただし、格言の趣旨自体は相場の本質を突いており、味わい深いものがある。

古今東西、同じ趣旨の格言は少なくない。例えば「早耳の早倒れ」とか「必ずしも市場にいる必要はない」など。
市場は情報が乱れ飛ぶ場である。情報量は豊富だが、情報量の豊富さが必ずしも儲けにつながるとは限らない。怪しげな早耳情報に振り回されて大損を被る危険性もあるという戒めだ。
曰く「流言飛語が相場の本性」であり、「生き馬の目を抜く」のが相場の世界。不確かな情報、意図的なうわさ、誤解…と、飛び交う情報は様々だ。だから、情報通とか、早耳通とかといった「筋の耳打ちは信用するな」と言われている。