キャッシュを積み上げた米企業の明暗

今年は米企業にとって、もっとも米企業らしくない経営者が多かった1年だった。労働分配率は史上最低水準に陥る一方で、現金を過去最高水準に積み上げた企業が実に多かった1年である。
ちなみに、株式のリターンが最高だったのは配当や自社株買いなどの株主還元を実施した企業となる一方、最悪のリターンは現金をため込んだ企業だった。

ブルームバーグの集計データによれば、ケアフュージョンやウエスタンデジタル(WD)などS&P500種株価指数構成の20銘柄は、11年のリターンが平均でマイナス15%。一方、ディレクTVレイノルズ・アメリカンなど自社株買いや高額配当の目立った40銘柄はプラス5.7%のリターンを記録している。
過去3年間に企業経営者らが蓄積した1兆ドル近い現金は、株主還元した企業の株価上昇を追い風に放出されるだろうと強気派らは指摘している。JPモルガン・チェースの米国株担当チーフストラテジスト、トーマス・リー氏は、来年には株主還元が28%増加し1兆1000億ドルに上ると見る。一方で弱気派らは、政府予算の削減で成長が抑制されるため、配当や自社株買いでは株価上昇の持続に力不足だと言う。

アルテミス・インベストメント・マネジメントの運用担当者、ジェーコブ・デツシュレック氏は「投資家はかつてないほど利回りを追求している」と述べ、「投資家は業界の一流企業で、余剰現金を生み出し、株主還元で実績のある企業に殺到している」との見方を示した。
S&P500種は先週、前週末比2.8%安の1,219.66で終了し、先月以来の週間下落となった。一部欧州諸国のデフォルト懸念を受けて同指数は4月29日に付けた約3年ぶりの高値1,363.61から11%下落している。

企業が手元に資金を積み上げた背景には、株式相場の下落に加えて、来年の米GDPの伸び率見通しが今年2月時点の3.3%から10月には最低2%まで引き下げられたことがある。S&Pによれば、銀行と公益企業、トラック会社、自動車メーカーを除く企業の現金は前四半期に過去最高の9989億ドルに増加した。
現金をため込んでも市場では報われていない。ブルームバーグのデータによれば、10年に現金と短期投資を最も増やした20社は今年15%下落した。医療技術会社のケアフュージョンの手元資金は09年のスピンオフ(分離・独立)以来で最高となったが、同社は自社株買いや一般株主への配当を実施しておらず、今年はそうした計画を発表していない。同社株は昨年末以来6.4%下落している。

一方、衛星テレビで米最大手のディレクTVは2月に発表した60億ドル規模のプログラムの一環として7-9月(第3四半期)に14億5000万ドルの自社株買いを実施。同社株は年初来で5.4%上昇している。
ブルームバーグの集計データによると、S&P500種の11年予想PERは12.3倍で、10年間の平均を30%下回っている。ビリニー・アソシエーツによると、今年自社株買いを承認した米企業は1,000社余り。年初から先週までに発表された自社株買いは5200億ドルと、過去3番目の高水準に向かうペースだという。