消費者金融が新手の総量規制逃れ

新生銀行が子会社で運営していた消費者金融事業を10月から銀行本体に移管したことに、業界が反発を強めている。事業を銀行に取り込むことで、消費者金融業者に課せられていた規制を受けなくて済むからだ。規制の強化で業界全体の貸し出し残高はピーク時の3分の1の水準まで減少し、業界は青息吐息の状態。一方、顧客拡大を狙う銀行では消費者金融事業を強化する動きが相次いでおり、同じ事業を展開しながら競争条件が異なる規制をめぐって、今後議論が高まる可能性がある。

年末の東京・JR新橋駅前。消費者金融の看板が連なる一角に「レイク」の無人契約機コーナーがある。新生銀行が直轄事業として始めた消費者金融事業だ。契約機の案内に従って免許証や各種申込用紙をスキャナーで読み込ませ、年収や勤務先などを入力すると、30分ほどで個人用無担保融資のカードが発行される。カードには消費者金融のブランド名はなく「SHINSEIBANK」の文字。一見すると、キャッシュカードのようだ。
新生銀行は、全国にこうした無人契約機を約800台持つ。南光院誠之執行役員は「レイクの既存顧客を確保しながら、これまでノンバンクを利用しなかった潜在的な資金需要者を獲得していきたい」と本体に取り込んだ狙いを話す。

新生銀行以外にも銀行の消費者金融への参入が相次いでいる。東京スター銀行は12日から、口座がなくともネットベースで融資を申し込める「バンクフリー」を開始。来年3月以降はオリックス銀行大和ネクスト銀行などもインターネットベースでの事業開始を計画する。
だが、こうした動きに既存の消費者金融業者からは「明らかな総量規制逃れ。貸金業者が貸せなくなった顧客層を取り込もうとしている」といった不満が漏れる。
消費者金融が法の網に入るのは、昨年6月に施行された改正貸金業法だ。
多重債務者の増加を受け、借り入れ総額を年収の3分の1までに制限する総量規制が実施された。年収の3分の1を超えて貸し付けていた顧客は大手で50-60%を占めており、貸し付け残高が大幅に減少。総量規制で縮小傾向が続く中、業界大手の武富士が昨秋に破綻し、アイフルも私的整理による経営再建が進められるなど大きな打撃を受けた。

一方、銀行は銀行法の規制内で事業が運営できる。総量規制の適用は受けないほか、専業主婦への貸し付けも貸金業法上では必要な配偶者の同意も必要ない。
テレビCMも、消費者金融業界は自主規制で7-9時、17-22時は流せないが、銀行はテレビ局側の自主規制で「CMを流せないのは17-21時だけ」(新生銀行)。既存の消費者金融業者より緩く、認知度向上には有利だ。
参入銀行側は「狙いは質の高い顧客層の開拓。返済余力の少ないハイリスクの顧客はターゲットにしていない」と声を揃える。
銀行の方が顧客の選択肢が広いのは事実だが、貸金業者以上に金融当局から厳しい監督規制を受けており、年収の3分の1を超えて借り入れようとする貸し倒れリスクの高い顧客を囲い込みにくいのが実情だ。
ただ、同じ事業を展開しながら2つの規制があるのは、健全な競争環境とはいえないのも事実で、統一した規制のあり方が求められそうだ。