PBR1倍への修復相場を狙え

ようやく反転の兆しが見えてきたものの、欧州債務危機などを背景に夏場以降、厳しい相場を経験した。トヨタ自動車ソニーパナソニックなど日本を代表する大型株から歴史的安値を更新する銘柄が相次いだ。
今回の調整は個別の悪材料が出て大きく売り込まれたというよりも、買い手不在の中を音も立てずにズルズルと調整するという印象が強い。世界的にリスク資産の圧縮という流れが続き、実態とは別に、いわば換金売りの対象となってきた格好だ。

調整の深刻さを表している一つの例はPBR(株価純資産倍率)の1倍割れが続いていることだろう。教科書的にいえば、株価を1株当たりの純資産で割り、これが1倍を割り込むとその企業の「解散価値」以下にまで株価が下げたこととなり、通常は「究極の下値指標」としての威力を発揮する。しかし、東証1部市場の平均PBRは1倍割れが常態化、いわばマーケットが「ニッポン株式会社」の倒産を織り込んでいる水準といえる。
個別に見ても東証1部の約70%が解散価値以下に放置され、中には0.6倍、0.5倍といった水準でも下げ止まらないケースが見られる。

一般的に一部の高成長銘柄を除き、小型株はPERやPBR、配当利回りなど投資尺度の面で比較的割安な水準にあることが多かった。これは、株式の流動性が低く、その分が割り引かれる結果とされている。しかし、今回は流動性の高い主力の大型株からPBR1倍割れが続出。市場関係者の中には投資尺度の有効性に疑問の声が出ているほどだ。
既に東証1部の配当利回り国債の利回りを上回り、「逆利回り革命」の現象も起きている。こうした異常事態の背景には、日本企業の競争力・収益力の低下、ブランド力の失墜といった企業サイドの要因、さらに、投資家の運用姿勢の変化などさまざまな理由が挙げられているものの、決定打はない。
さらに、経済状況の局面ごとに、有効性を発揮する投資尺度が変化することはあり得る。先行きの利益・配当を基に算出するPER、予想配当利回りなどは、業績下方修正や減配のリスクがある局面では有効性が低下する。
しかし、一部企業の不祥事が投資家の信頼を損ねる事例はあるものの、日本企業のバランスシートが信用を失うレベルにあるとは思えない。将来の資産目減りを考慮しても、資産面から売られ過ぎの感は強い。

安易な値ぼれ買いは慎むべきだが、業績がしっかりしているにもかかわらず、「いくら何でも」の水準に調整した銘柄に関しては、正常化するだけでもリターンが見込めるはずだ。そして、その動きが始まろうとしている。