セブン&アイの100日プランへの採点は厳しい

「私に100日、時間を下さい」。5月26日に都内で開かれたセブン&アイ・ホールディングスの社長就任会見で井阪隆一社長はこう訴えた。約四半世紀にわたってグループを率いた鈴木敏文前会長の路線を見直し、問題点を洗い出し、構造改革を進めるために株式市場に求めたいわば「猶予期間」だった。
正確には133日後。提出されたその答、通称「100日プラン」に対して株式市場が出した答えは、とりあえず「ノー」だった。エイチ・ツー・オーリテイリングと資本業務提携し、傘下のそごう・西武の3店舗をH2Oリテイに譲渡すると発表した翌7日。セブン&アイの株価は終日売り物がちで5%下落して取引を終えた。
ニュースの第一報の印象は鮮烈だった。H2Oリテイとの資本提携という選択肢についてはノーマークで、市場関係者の間からは「サプライズ」の声が相次いだ。だが、6日の井阪会見後、彼らに評価を聞くと100点満点からは遠い採点が相次いだ。彼らの生の声を紹介しよう。

「え、H2Oリテイ? 資本提携?って最初聞いた時はびっくりしたよね。でも100日プランを詳細にみると、これで追加投資を決める気にはならないね。一言で言えばリストラが踏み込み不足だ」
グループの足を引っ張る祖業、イトーヨーカ堂の店舗閉鎖は40店とこれまでに発表してきた分からの追加はなく、不振が続くファミリーレストランデニーズや相乗効果が発揮できていない生活雑貨店「フランフラン」のバルス、高級衣料品店「バーニーズ・ニューヨーク」を運営するバーニーズジャパンなどについては触れずじまいだった。俎上にあげた百貨店事業についても、明確にリストラを打ち出したのは関西に立地するそごう・西武の3店舗だけ。米投資ファンド、サード・ポイントが求めた百貨店全体の切り離しのような大なたは振るわれず、あとにはそごう徳島や西武福井など業績が振るわない地方の百貨店群が残る。

「確かにメニューは色々出ましたね。投資家を引き付けるネタをだそうという新経営陣の姿勢は感じます。しかしそれで利益が上げられそうかというと別問題です」
100日プランの中で、イトーヨーカ堂については駅近くの好立地にある特性を生かし、老朽店舗を建て替えて高層にマンション、低層にイトーヨーカ堂の食品スーパーが入るような不動産再開発を絡めた活性化策を打ち出した。実店舗とネット通販を融合させる「オムニチャネル」戦略に関しては、スマートフォン向けアプリを軸にテコ入れを図る。グループ共通のポイントプログラムを導入、傘下の赤ちゃん本舗を橋頭堡に子育て世帯を引き付け、子供の成長に合わせて、グループの他のサービスを店頭やネットで活用し続けてもらう戦略を打ち出した。

「これで業績が上がって株価が上がるシナリオはイメージできませんね。もちろん、プラスかマイナスかで言えばプラス評価でしょうけど」
今回セブン&アイとして初めて公表した中計の数値目標は、2020年2月期に営業利益で4500億円。今期計画から約1000億円積み増す計算になる。この1000億円はどこから生まれるのか。計画では「成長事業380億円」「シナジー130億円」などの漠然とした記載にとどまり、具体策が見えない。
ではどんなシナリオなら、業績が上がり株価が上がるイメージを投資家に与えられたのだろうか。答えは不採算事業からの撤退を徹底した上でのグループの主軸、コンビニ事業への資源集中だろう。9月にはファミリーマートユニーグループ・ホールディングス経営統合してユニー・ファミマHDが誕生、追撃態勢を整える。3位に転落したローソンも三菱商事との関係を強化してのテコ入れを急ぐ。足元まで49カ月連続で既存店売上高が前年を上回る王者セブン―イレブン・ジャパンといえど盤石なわけではない。
さらには「手元資金を積み上げるだけ積み上げたのに還元姿勢が希薄な点がマイナス採点」との声もあった。コンビニが生み出すキャッシュに支えられ、今や保有する現預金は1兆円を超え、この10年間で倍になった。今後は総合スーパーの出店抑制や百貨店の店舗削減で、投資負担は既存店の改装などが柱になる。現金の使い道としてこのまま保有し続けるのがベストとは言いがたい。今回は触れずじまいだったが、自社株買いについても検討が必要な事項だ。
むろん投資家は100日で性急な成果を求めているわけではない。それでも1つ1つの疑問に真摯に応えていくしかない。取りあえず前体制の負の遺産に手を付けた段階で、新生セブン&アイが築いた実績は今はまだ何もないのだから。