日本だけが流出を続けるゴールド

かつて外国為替・貴金属ディーラーを務めたこともある豊島逸夫事務所代表の豊島逸夫氏は、今年の金相場の値幅について、1トロイオンス1,350-1,950ドルと予想している。年前半は欧州債務危機への不透明感から、金は安全資産ではなくリスク資産と見なされやすい。自己資本増強を急ぐ欧州系銀行が金を売ってドルやユーロを集めたり、ヘッジファンドが値下がりした株式の損失分を穴埋めするため、保有する金を売る動きが当面は続き、足元では金価格がさらに下がる可能性があると考えているようだ。
一方で上昇要因としては、米連邦準備制度理事会(FRB)が1月、13年半ばまでとしていた超低金利政策を14年末まで続けると表明したことで、投資家にとっては刷れる紙幣の価値が希薄化する一方、刷れない金の価値が高まっていることが挙げられる。
もうひとつ、成長が続く新興国、特に中国とインドでの金需要は相変わらず高いこともある。中国は国の金保有率を高めようと銀行の地方支店に金の販売窓口を開設し、国民が金を買うことを国が奨励している。インドは婚礼時に女性の嫁ぎ先に大量の貴金属を持参する習慣があり、金人気は根強い。ただ、価格が2,000ドルを超えたらバブルだ。過熱感から売り優勢に転じるだろうとみている。

高成長が続く新興国に金が集まるのは当然だが、ドイツやスイスなど先進国でも金を買い増しており、世界的には、金をかき集める傾向があるが、日本だけが流出が続いている。金の保有量は国力を表すとされるが、凋落ぶりを予見しているかのような動きだ。
国内でも個人投資家には金への関心が高まってきてはいるが、全体としてみると、日本は個人の金融資産が約1400兆円にのぼることもあり、国の財政に対する危機感がまだ低いのだと考えられている。金はパソコンなどの内部基板に使われる貴重な資源でもあり、長期的な視点に立って、国策として金の過度な流出を注視し、一定量の金を備蓄する対策が必要だと豊島氏は語っている。