安全資産に流れる個人マネー

個人のお金が国債や預金など比較的安全な資産に向かう傾向が強まっている。欧州の財政危機や円高による景気悪化の懸念から、株式や投資信託といった運用リスクの大きい商品を敬遠。金融機関は投資に慎重な個人マネーをあの手この手で取り込もうと躍起だ。

国債の償還金をうちの金融商品に振り向かせろ。一番の課題だ」
ある大手銀行の営業担当者は今年初め、上司からこうハッパを掛けられた。しかし、今では「どこの銀行も同じだが、結果は散々」と浮かない顔だ。
06年に発行が始まった個人向けの5年物国債。今年1月、満期で国から元金が支払われる償還期を迎え、12年末までの償還予定額は8兆円強にも上る。現在の利率は0.32%で5年前の半分にも満たず、金利面の魅力が薄れている。このため金融機関は、国債償還でいったん個人に戻ったお金を投資信託など自社の金融商品に誘導する戦略を採っていた。
だが、目論見はあっさり外れた。5年物国債の償還があった1、4、7、10月の翌月は、3年物国債の発行額が827億-1166億円に膨らんだ。ほかの月はおおむね500億円程度のため、金融関係者は償還金のうち少なくない額が国債の再購入に向かったとみられる。
期待していた投資信託の販売はさえない。株式などリスク資産で運用する「株式投信」は、10月に新規の購入額が解約・償還額を6カ月ぶりに下回った。世界的な株安が響き、9月まで5カ月連続で運用損益はマイナス。運用成績の悪化で個人の購入意欲がそがれたようだ。

一方、安全志向から現預金は増え続けている。家計の金融資産のうち、現預金は6月末で828兆円と過去最高で、資産全体の50%強を占めた。
信託銀行の男性は「今『投資信託を買って』とはいえない。自分も比較的価格が安定している金を買う」と苦笑いする。
金融機関も手をこまねいているわけではない。りそな銀行が5月から売り出した金銭信託「信託のチカラ」は、即売が続く。高格付けの円建て債券に投資。
手数料が不要な上、為替リスクをなくすなどして利回りの向上を目指したのが特徴だ。計130億円の応募のうち1割強が、従来はりそなと取引がない顧客だった。
経営破綻した際、支払い順位が通常の社債より後回しになる代わり、利率は高い「劣後債」にも力を入れる。この秋、三井住友銀行が1900億円、埼玉りそな銀行が500億円、三菱UFJ信託銀行が400億円の個人向け劣後債を発行。年1%超の利率が売りだ。
住友信託銀行調査部の青木美香調査役は「個人マネーがリスク商品購入へ動きだすには時間がかかる。金融機関も工夫が必要だ」と話している。