金融円滑化法期限切れが近づく

銀行など金融機関からの借入金の返済を猶予できる中小企業金融円滑化法が施行から4日で2年を迎える。中小企業が同法を利用した件数は既に100万件を大きく上回るが、返済猶予を受けても業績が改善しないケースも多く、潜在的不良債権が増えているとの見方が強い。12年3月に同法の期限が切れると、4兆-5兆円に達するともされる「隠れ不良債権」が表面化し、金融機関の経営を大きく圧迫する恐れもある。

「倒産の減少で予想損失率が低下するとともに、当初の想定より与信費用が大幅に改善した」。りそなホールディングス細谷英二会長は11月中旬、11年9月中間決算発表の席上、前年同期比56%増と大幅な最終増益となった理由をこう説明した。りそなだけでなく、倒産の減少は3メガバンクをはじめとする多くの金融機関の業績を押し上げた。
民間信用調査会社の東京商工リサーチによると、11年度上期(4-9月)の倒産件数(負債額1000万円以上)は前年同期比2.0%減で、負債総額も28.6%減少した。その後も同様の傾向は続き、10月の倒産件数はバブル崩壊後の92年以降で同月としては最も少なくなった。
倒産が減少した最大の理由は、円滑化法の効果だ。借り手の中小企業や住宅ローン利用者から要請があれば、返済猶予など貸し付け条件の変更や借り換えに金融機関が応じる努力を求める内容で、金融機関に融資状況などの報告や開示を義務付け、虚偽報告には罰則もある。

金融庁によると、中小企業による条件変更の件数は6月末までに主要行や地銀など146行ベースで115万件にのぼり、住宅ローンは10万件に達した。
時限立法の同法は既に1年延長した経緯があり、あと4カ月弱で期限切れを迎える。適用を受けた中小企業などは経営実態に合った貸し付け条件に戻され、それによって表面化する不良債権は4兆-5兆円規模にのぼるとの見方も業界にはある。
東京商工リサーチの友田信男情報本部長は「金融機関の経営を圧迫する可能性がある」と警鐘を鳴らし、日銀も「経済の活動水準が低めのため、中小企業を中心に貸出債権の質の劣化に注意が必要」と指摘する。

同法は08年秋のリーマン・ショック後の景気低迷を受け、中小企業の経営立て直しを支援する狙いだったものの、欧州の債務危機の拡大や円高進行で景気回復の足取りは重く、経営環境は厳しいままだ。
貸し付け条件を変更した企業を対象とする北陸財務局のアンケートでは、約80%の企業が変更後の資金繰りに「変化がなかった」か「悪化した」と回答。全国的にも同様とみられ、経営の改善につながっていない。
円滑化法を活用しながらも倒産した企業は7月以降急増。1-9月でみると前年同期の約3.6倍の108件に膨らみ、負債総額は約4倍の827億円に達した。業績回復の遅れに加え、東日本大震災で中小企業が大きな打撃を受け、同法の効果も一巡した格好だ。
大手行などは同法の期限切れに備え、貸し倒れ引当金の積み増しなどを進めている。だが、中小企業との取引が多く、体力の弱い第2地方銀行や信用金庫、信用組合などには大きな打撃となりかねない。12年4月以降に倒産が急増すれば、緩やかな回復基調にある日本経済を下押しする懸念も高まるため、政府が円滑化法の再々延長に踏み切るかどうかも焦点になりそうだ。