サウジアラビアの対外純資産が止まらない

自国通貨の支援能力の指標であるサウジアラビア中銀の対外純資産(NFA)は、今年も大幅な減少が見込まれている。原油安が影響するほか、海外投資に向けた政府系ファンド(SWF)の拡大が背景にある。
対外純資産は14年8月に過去最高の7370億ドルに達した後、16年末には5290億ドルに減少。原油安を受けた巨額の財政赤字の穴埋めのため、政府が一部資産の取り崩しに迫られたためだ。
財政緊縮措置や原油価格の一部回復を背景に、今年は財政赤字の削減が大きく進展。第1四半期の財政赤字は260億リヤル(約69億米ドル)となり、前年同期比で71%も縮小した。

しかし、対外純資産は17年1-4月に360億ドル減と、ここ数年とほぼ同じペースで減少。これはエコノミストや外交関係者らにとって謎であり、サウジへの市場の信認に傷が付きかねない事態だ。
ドバイ最大の銀行エミレーツNBDで域内調査部門を率いるカティジャ・ハク氏は「サウジの国際収支に、原油輸出収入の減少にはよらない大きな赤字が依然としてあることを示唆するものだ」と語った。
サウジによるイエメンへの軍事介入に関連した支出が原因との見方もあるが、これは考えにくい話だ。そもそも、イエメン軍事介入は限定的な空爆であり、本格的な地上戦ではない。サウジのある高官が15年末に示唆したところによると、年間の費用は70億ドル程度とされる。

資本流出が原因とする声もある。しかし、商業銀行の外貨取引に関するサウジ通貨庁(中央銀行)のデータはこの見方を裏づけていない。
サウジの銀行のエコノミストは「資本流出はもはや問題ではない。15年はかなり流出したが、16年には大幅に縮小した」と話す。
サウジ当局と接触を持っているある国際バンカーは、対外純資産が減少している主な理由として、公的投資基金(PIF)など海外に投資するSWFに資金が流れているためではないかとの見方を示している。
サウジは、技術を入手し資本リターンを高めるため、海外への大規模な投資を計画。PIFは、ソフトバンクが創設したハイテクファンドに5年間で最大450億ドルを拠出すると発表。米ブラックストーンが計画するインフラファンドにも200億ドル投資する予定だ。

原油価格が再び下落基調を強めていることも、サウジの対外純資産を一段と圧迫しそうだ。国際指標のブレント原油先物LCOc1は今年第1四半期は平均で1バレル54.57ドルだったが、その後は46ドル前後と、昨年の平均価格をわずか1ドル上回る水準に落ち込んだ。
リセッション阻止のために最近、緊縮財政がやや緩んでいることも踏まえると、17年通年の財政赤字は当初予想の1980億リヤル(527億9000万ドル)に近いか、若干上振れする可能性がある。
昨年の2970億リヤルよりは改善するものの、PIFへの資金移管と合わせると、対外純資産の一層の減少は避けられないとみられる。
サウジの最大手銀行、ナショナル・コマーシャル・バンクのグループチーフエコノミスト、サイド・アルシェイク氏は「通年の財政赤字予想を踏まえると、対外純資産の減少が続くのは確実な情勢だ」と話す。
4月末時点の対外純資産は4930億ドルと輸入代金を4年間支払うことが可能な規模で、向こう数年のリヤル防衛には十分だ。
しかし、サウジ国債の5年物クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)SAGV5YUSAC=MGは今月、2月上旬以来の水準にまで上昇。警戒感の高まりが鮮明になった。