株は5月に売れ

この時期よく話題にあがってくるアノマリーが「Sell in May, and go away(株は5月に売れ)」である。もともと米国で言われ始めたもので、5月が決算期のヘッジファンドが多いからとか、5-6月は原油の需要が減るからといった様々な説があるようだ。
日本でも「鯉のぼりの季節が過ぎたら株は売り」という相場格言がある。実際に検証してみると5月ごろに高値をつけて下落し、秋まで相場低迷が続くという現象がしばしばみられる。13年の日経平均株価がまさにそうだった。5月22日に15,627円の高値をつけた翌日に急落し、その後の1カ月で3,000円近く下げている。

「理論的な根拠がない」とされるアノマリーだが、行動経済学の観点で説明できることも多いという。そのカギは、多くの人が特定の情報や知見に基づき、同じような行動をすることによって起きる「同調伝達」という現象だ。
株価の動きは常に不確実。どうなるか分からないという不安な状況に陥ったとき、人はどういう行動をとるかというと、まず「ほかの人はどうしているのだろう」と考える。そしてみんながそう思って同じような行動をとると、マーケットはその方向に動いていくというからくりだ。

ところが、株式投資というものは、「人の行く裏に道あり花の山」という相場格言にもあるように、みんなと逆の行動をとらないとなかなか儲からないもの。同調伝達によって起こりがちなアノマリーが知られているからこそ、そうならないように、という教訓として「Sell in May」が言い継がれてきたのだろう。
また「晴れの日には株が上がり、雨の日は下がる」という冗談のようなアノマリーもあるが、これも実際に統計を取ってみると案外当てはまるらしい。やはり天気がいい日は気分も高揚し、積極的な投資行動に出るのかもしれない。

株式市場は多くの人が参加して成り立っているだけに、人間の考えや感情によって相場の動きが左右されるのは当然のこと。アノマリーは必ずその通りになるとは言えない半面、あながちまったくの迷信や妄言と言い切れないのも、こうした感情や心理が背景にあるからだと考えられる。
チャートを見て相場の先行きを予想するテクニカル分析は「人間の心理はいつの時代も変わらない」という前提に立っている。過去のトレンドをよりどころにするのはこれまで人々がどうやって考え、行動してきたかを検証することであり、それは将来にも当てはまるという見方だ。これにも一理あるとは思うが、やはり株式投資の王道は企業価値を買うことだから、あくまでも短期的な動きを読む場合の参考にとどめておくのが賢明だ。

ところで「Sell in May」には続きがあるという。「But remember to come back in September(9月に戻ってくることを忘れるな)」です。9-10月には相場が底入れして上昇に転じるから、そこで再び投資せよというわけだ。今年の5月と9月はこのアノマリーを信じて行動するか、それともあえて逆に動くべきか。昨年と違って今年は4月前半が株安だっただけに投資家の判断は分かれるかもしれない。