もともと怪しかったAIJ投資顧問

金融庁から業務停止命令を受けたAIJ投資顧問をめぐり、高い運用パフォーマンスや情報開示について、かねてから年金運用関係者の間で疑問の声があがっていたことが明らかになった。AIJはリーマンショックや欧州危機、大震災の中でも安定運用を売り物に顧客からの受託を増やしていた。
日本証券投資顧問業協会によると、AIJの運用額はリーマンショック前の08年3月末は1262億円だったが、09年3月末は1770億円に増加。投資家数もこの間に89件から125件に増えた。その後も増やして昨年9月末には127件、2177億円を運用していた。リーマンショックのあった08年度も7.45%の運用収益をあげていたと説明していた。

09年上半期にファンド・オブ・ファンズ(FOF)運用会社のMCPアセット・マネジメントの越智哲生CEO(最高経営責任者)は、顧客からの依頼でAIJをデューデリジェンス(適正評価手続き)しようと試みたができなかったと振り返った。「精査が必要という投資家とは付き合わない」という返事がきて驚いた。
ブルームバーグ・ニュースが入手した投資家向け資料によると、AIJは日経225オプションを中心に株式や債券のオプションや先物で運用。目標リターンは年率10%、目標リスクは標準偏差5%としている。同社のあるファンドは運用開始の02年6月以来112カ月間の運用利回りが241%、年率換算収益率(月複利)は14.06%だったという。

タワーズワトソンのインベストメント部門で年金向け運用コンサルティングを手掛ける大海太郎取締役は09年初めごろAIJから売り込みを受けた。しかし、AIJの松木新平最高投資責任者(CIO)に97年の総会屋事件での逮捕歴があるなど「怪しい状況証拠があちこちにあった」ことから、自社の顧客には注意を促していた。
ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊地真代表取締役は「東日本大震災の後に損しないのはおかしい」と指摘する。AIJのファンドはオプションの売りでプレミアムを稼ぐ運用が中心。「震災後のようにボラティリティーが高まると普通なら大打撃を受けるはず」だが、AIJは11年3月以降も運用益を上げ続けていたことになっていた。
タワーズワトソンの大海氏は株価指数オプション市場について、「年率7-8%で運用しているとして投資額から逆算すると、同社のポジションは実際の市場規模の相当分を占めていたことになる」と指摘。そのような取引実態があれば「市場でも話題になっていたはず」との見方を示した。こうしたレバレッジ取引はリスクが高いからだ。

厚生労働省によると、AIJに総運用額の3割以上を委託していた年金は8件あり、ある基金は総運用額91億円の6割近くの52億円を委託していた。MCPの越智氏は、「投資の基本プロセスを踏んでいれば防げただろうが、中小の総合型基金などに直接販売したため、被害が拡大したのだろう」との見方を示した。
AIJには安川電機富士電機アドバンテストなどの上場企業のほか多くの中小企業の年金基金が運用を委託している。富士電機基金は運用資産の9%にあたる93億円を投資していたと発表した。福井県トラック厚生年金基金橋本和幸常務理事は「証券会社を通じて3億円程度運用を任せている」と述べた。